異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
――国王様は?

転ばないよう厚手の絨毯を踏みしめながら、ソファセットを避けてその奥のテーブルへゆっくり近づくと、陽の射す窓のところに誰かが立っている。

髪の色は、メグミよりは多少ブルネットに近いかもしれないが、黒獣王らしく黒色だった。

背が高くすらりとして、直立している背中と後ろ背に回って組まれた腕という立ち姿には、柱か岩かという確かさがある。

膝丈の上着は紺色の地に錦糸が入っていてずいぶん絢爛豪華な感じだ。ただ紺色が主体なので重厚感がある。ズボンは白だった。

メグミは一呼吸してから声を上げる。

「陛下……。お持ちいたしました」

声が裏返ったのは愛嬌ということにしてほしい。

そして王はこちらを向いてくる。

――割とがっちりした感じ? 肩幅が広いな。お歳は……二十八歳だったっけ。ジリン様の説明ではそうだったわ。あれ? コラン様と同じなのね。

そこでどうしてコランを思い浮かべたのか、黒獣王の顔を見た瞬間に理解する。
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