異世界にトリップしたら、黒獣王の専属菓子職人になりました
食べて貰えることが嬉しい。人の足が遠のいていたあの商店街のことが頭を過ぎった。
父親は、とてつもなく大変で苦しくても、元の世界へ戻りたいとは言わなかった。母親は、どこの世界にいようともメグミのことが気がかりで仕方がなかっただろう。
いまは二人ともここに眠る。
メグミにとって生まれ育った故国は、ほしい材料が見つからないとき、どうしようもなく戻りたくなるところだった。そんなときには、郷愁の念を一旦横に置いて、この世界に根付き始めている自分を振り返る。
異世界での友人もできて、客も増え、好きなだけ和菓子を作っている。大きな店にも卸していた。そういう環境をコンラートが後ろ盾になって整えてくれる。身分だけは超えられないが、近くにいてほしいと望まれる間はこのままでいるつもりだ。
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