ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



治療法の選択
これを医療者が独断で決めてはならないことなんて
医療者である自分だって理解している

患者や家族が
どのように治療するか
どのように生きていくかを
彼らが決めるという意思決定

医療者は彼らの想いを尊重し、意思決定を支援していくこと
今、目の前にいるICU医師はそれに徹してくれている

「この治療方法で行います」という説明ではなく
「どうなさいますか?」という問いかけを行うことによって・・



けれども
ようやく彼女が目を開いたんだ
弱々しいけれど指にだって力をこめることが出来たのに

その治療が上手く行かなかったら
伶菜は俺の元に、子供達の元に
そして
彼女を待っている患者達の元に
戻ってこれなくなるかもしれない


簡単には選択なんてできない
彼女の人生まで左右してしまうかもしれないから


そんなことを
俺ひとりで判断してもいいのか?
彼女の人生は彼女のモノではないのか?




『・・・少しだけ考える時間を下さい。』



伶菜の家族であり、臆病な俺は
この土壇場で即決なんてできなかった。

自分が医療の知識がない人間だったら
ICU医師にすがるように
提案された治療方法を迷うことなく同意していただろう


医師でありながら彼女を救えない

そんな自分が医師であること
祐希を妊娠していた伶菜を東京へ送り出す時と同じような自分でいること
・・・俺はそんな自分が情けなくて仕方がなかった。

なんで、同じことを繰り返しているんだろう・・・・と。



自分に対する

情けなさ

悔しさ

そして

大切な人の大事な選択を
自分がやらなくてはならないという重圧感

それらを胸を押しつぶされそうになりながら
俺は出さなくてはならない答を
伶菜の手を握りながら探した。


本人ではなく
家族という立場で
答を出さなくてはならないことが
こんなにも苦しいことだということも
初めて知った。



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