ラヴシークレットルーム Ⅲ お医者さんとの秘密な溺愛生活



たった5分前。

俺は伶菜のいるカウンセリングルームから産科病棟へ戻る途中に立ち寄った売店にいた。



「日詠センセ。またメロンパン買ってる。」

『・・・・・・・』

「売店のおばちゃんとしては売り上げに貢献してもらってありがたいけど、それがお昼ご飯なんて、おばちゃん心配。彼女にお弁当とか作ってもらったら?」

『・・・ハハ。』


俺は病院内の売店でほぼ毎日、好物のメロンパンを買っている
昼飯は伶菜が作ってくれる弁当を食べているから、このメロンパンは小腹が空いた時に食べているんだが


「も~う、イイ男だからって、結婚相手を厳しく選びすぎててなかなか結婚しないんでしょ?おばちゃん、日詠センセにふさわしい娘さんを紹介してあげようか?知り合いにいるのよ・・・・凄くいい娘が。」

『・・・ハハハ、そうですか・・』



俺には
昼飯の美味しい手作り弁当も
大切にしたい愛しい妻も
・・・・ちゃんとある
・・・・ちゃんといる
と返答すれば簡単なんだが

この売店で毎日と言っていいほど顔を合わせる愛想のいい店員のおばさんにもどう返答していいのかわからない



伶菜から
“結婚しているコトはできるだけ内緒にしておいてね”
と頼まれているから・・・・

なぜかわからないけれど内緒らしい
そんな感じだから、俺は店員のおばさんにロクな返答ができないまま苦笑いで応戦していたすぐ傍で


「はい、売店です。・・・・・ご注文ですね・・・・図解、腹部エコーの診かた・・・・・」

隣のレジの男性店員が電話応対し始めた。

「はい、在庫があればあさってにでも入荷すると思います・・・・はい、総合診療、内科の・・・・・前田先生ですね?」

その声を聞いて、俺はすぐさまの男性店員のほうを向いてしまった。
内科の前田という名前を耳にしてしまったがために。



「わかりました。あさって以降にお待ちしています。売店の田中が承りました。」

俺はそう言って電話を切った男性店員の様子をじっと見つめていた。


「あの・・何か?」

『あっ、いえっ』


不思議そうな表情で男性店員に見つめ返される。


「ほら、日詠センセ、買ったメロンパン忘れてるよ・・大丈夫?」

おばさん店員にも心配される始末で。


『・・・・どうも。』

俺は店員さん達に軽く会釈してメロンパンを受け取り売店を後にした。



産科病棟に早く戻って書類を片付けなくてはいけないのに
売店の男性店員の電話応対を耳にしてしまったせいで
さっき臨床心理室の早川室長も口にしていた“内科の前田”という人物名が頭から離れなくて。

俺の足は無意識のうちに屋上へ向かっていた。
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