Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

山村文樹

この恋は俺にとって後にも先にも一生忘れることができないものだと思う。

翠ちゃんとの出会いは大学に入って間もない頃だった。
学部もサークルも違う彼女と偶然にも巡り会うことができたのを友人たちには感謝したい。
飲み会に少し遅れてきた翠ちゃんは、綺麗な鎖骨のラインが見える淡いラベンダー色のトップスに
これもまた淡い白やピンク水色や黄色の花柄のミニスカートを履いていたのを今でも覚えている。
こんなにも可愛い人がこの世界にいるのかと。東京へ来て時折芸能人を目にすることもあり「オーラ」と言うものが本当にあると言うのも知ったけれど俺が見てきた芸能人よりも綺麗だと思ったのだ。
それぐらいにこの出会いは衝撃的だった。

俺は一番端に座っていて、いつも注文をする係や幹事をやらされる。いつも面倒な仕事を押し付けられるけれど元々教師志望で、実は嫌いじゃなかったりする。そんな誰にも気が付かれない努力が実ったのかもしれない。
遅れてきた美人の翠ちゃんは、奥の方で完全に酔っている男たちに「翠ちゃん~~こっちおいでよ~~」
と強引に誘われる。
彼らも、翠ちゃんが今かと待ちわびている様子だった。
この大学では、人気者で付き合いたい男たちがたくさんいる。

「私、ここでいいよ。」
困っている様子で彼らに返答する。

「え~~~寂しいじゃん」
逆にその反応を楽しむかのように言うが明らかに翠ちゃんは戸惑っていた。

「わかった。じゃあ一杯飲んでからね」
笑顔でそう答えて俺の横に座った。優しい子だなとその時思った。
居酒屋のタバコとアルコールと焼き物の匂いで充満していたこの部屋で翠ちゃんが隣に座るだけで甘い香りがして空気が浄化されるようだった。
俺は、メニューを渡すと「ありがとう」と明るい声で言った。
俺は、メガネをかけていてよく「地味で真面目」と言われる。女の子と話しはするし、遊びに行ったりもするけれど付き合ったこともない。友達止まりで終わる男。奥に座るやつらはいわゆる「パリピ」で大学生活を楽しんでいて女の子の扱いも慣れている。
翠ちゃんの注文していたビールが届くと、もう一度乾杯をする。
顔が小さいせいか、同じビールジョッキを持っているはずなのに翠ちゃんがジョッキを持つとやけに大きく見える。
トップスから見える腕も肌も、顔も、細くて長い足も真っ白で、アルコールが入るとみるみる頬がピンク色に染まっていった。

そんな姿に見とれていると、奥の男たちが次はビール、次はハイボールだの、つまみを頼めと騒ぎ出す。
暴れてうるさいのを店員に謝るのはいつものこと。

「文樹くんだっけ・・・すごいね。」

俺の名前を覚えてくれたことに少しだけ感動したのと、普段誰にも評価されることのない行為を褒めてもらえたことがシンプルに嬉しい。

「いや、いつも飲み会ってこんな感じだから」

「そうなんだ。でもたまには休んで。私遅れてきたし注文とる係するよ」

「え・・・でも悪いよ。あいつらも翠ちゃんと飲めるの楽しみにしてたし。」

「私、こういうの本当は苦手なんだよね・・・だからお願い・・・」

そう行って、可愛くおねだりをされて怯まぬ男はいないだろう。俺の仕事を奪った翠ちゃんと他愛のない話をした。
おそらく今日のこの場で翠ちゃんと話ができたのは俺だけだと思う。

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