Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜
久しぶりに巡った出会いは、3つ年上の同じ教師である和子(わこ)さん。
少し強引な和子さんは、俺の童貞をあっさりと奪っていった。
でも、こんな風にリードしてもらった方が俺は気が楽だ。
今では結婚して、和子さんのお腹の中には赤ちゃんがいる。
そして、家を建てることを決意し色々な住宅メーカーを回っていた。
和子さんの希望しているイメージにぴったりの会社を一番の後回しにした。
それは、翠ちゃんが入りたいと言っていた会社で、風の噂でそこの就職が決まったと聞いていた。皮肉にもお世話になっている産婦人科と会社が近く、打ち合わせもしやすい場所でありとても好条件で顧客満足度も高い会社と聞いている。

恐る恐る足を踏み入れると、受付の女性が丁寧に席へ案内をしてくれた。
営業担当の人が知らない人であることに安堵しているのもつかの間で、たまたま翠ちゃんが通りかかった。
相変わらず白くて綺麗な肌に、くりくりとした目。髪を綺麗に後ろで束ねて、
ジャケットにタイトスカートを履き、相変わらずの綺麗な脚でヒールをコツコツと鳴らしながら上品に歩く様は、大学生の頃に比べると大人の色気を増していた。
翠ちゃんはすぐに俺に気がつき、驚いた顔をしていた。隣を歩いていた男性は翠ちゃんの表情の変化を不思議そうな顔で見ていた。

もちろん俺も、一気に心拍数があがりおどおどとしている姿に和子さんはすぐに反応をした。

「どうしたの?知り合い」

「いや、その。」

マタニティブルーのせいか気分の浮き沈みの激しい和子さんに昔付き合っていた人だと紹介するには気がひける。
こないだも、少しだけテレビのアナウンサーに見とれていただけで怒られたのだ。
困っていると、翠ちゃんはあの日のことがなにもなかったかのような笑顔で

「大学一緒だったんです。久しぶり。」

「おぉ久しぶり」

どこかぎこちない2人に、その場にいた和子さんと、翠ちゃんの隣にいた男性が首をかしげる。

翠ちゃんとのやりとりはそれだけだった。それからは心ここにあらずといった感じで目の前の仕事のできそうで話がうまい30代の男性の営業マンの話を聞く。和子さんも本命の住宅メーカーとあっていつも以上に熱心に質問をしていた。俺は話を聞きつつも翠ちゃんのことを考えてしまう。
あの日の俺の幼さと後味の悪さが一気に込み上がる。


話を終え、検診までの間に少し時間があるので食事をしてから少し買い物をすることになっていたが、俺は下手くそな芝居で「忘れ物をした」といい。先に和子さんに駅ビルで待っていてもらうことにした。
心臓が鼓動が早くなっていく、夏がもうすぐやってくる蒸し蒸しとしたアスファルト地獄の東京でダッシュをするなんてバカみたいだ。
住宅メーカーのオフィスに戻り、受付の女性に程なくして翠ちゃんの名前を出すと彼女は驚いた様子で俺を見ていた。

「5分だけでいい・・・話ができるかな?」

翠ちゃんは、応接室へと誘導してくれた。
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