Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

好き(今泉翠)

次の日、瀬戸口を見かけるも西木の姿を見ると無性に腹が立ち、謝る気が失せしまう。

(この子は、瀬戸口とシタことがあるんだもんね… 私はないのに…)

嫉妬によく似た感情が胸の奥を締め付ける。謝る気はあるのに、謝りたくない気持ちが勝る。
瀬戸口と関わらないように1日仕事をした。

仕事を終えて、オフィスを出ると二人の髪色の奇抜な可愛らしい女の子が私の前に立ちはだかる。


「すみません~~。今カラーモデル探していてぜひおねえさんにお願いしたくて」

この手の勧誘はとても苦手で、キャバクラのキャッチや、モデルのスカウトよりも断りにくい。
若い子たちの必死さに、NOと言いにくい。

「いつも行っている美容院があって・・・・」

「無料でやるんで」
そう行ってグイグイと手を引っ張る。

(この美容院大丈夫か?見つけるまで帰ってくるな的なパワハラ?)

私は、彼女たちの強引さに勝てずに、手を引かれるがまま美容院へ到着するとそこはよく雑誌で見るような有名なサロンだった。
ドアから顔を出した男性は「お前たち強引に連れて来すぎだ」と言っている。

私は、営業終了後のお客さんのいない美容院の鏡の前に座りケープをかけられる。

「初めまして、僕は瀬戸口泰生の幼馴染でここの店長をやっています立花和哉と申します。」

おしゃれな黒のハットから綺麗な金髪が覗き、片耳に6個ぐらいのピアスを開けているイケイケなお兄さんを鏡ごしに見ながらぺこりと頭を下げた。
その周りを囲むようにスタッフたちが勢ぞろいする。

「実は俺たちずっと彼の片思いを応援して来ました。ダサい髪型を作ったのが僕で、ダサいメガネを提供したのがこの子、ダサい服のコーディネートをしていたのがこの子です。」とまるでドラマの制作現場のように役割を説明してくれた。

「ここまで泰生がしたのは、自分の外見ではなくて内面であなたに好きになって欲しいからと言っていました。
何か発展するたびに嬉しそうに話すし、うまくいかなかった時はめちゃめちゃ落ち込んでいました。本当に好きなんだなって…だから、余計にアイツの過去のことで嫌いになって欲しくないっていうか…うまく言えなくてすみません。
このまま、2人がダメになっちゃうのをだまってみていられなくて、勝手な行動をとりました。アイツに頼まれたわけじゃなくて、俺の独断です。」

頭皮に触れたカラー剤が冷たい。

「私が大人気なかったんです。
ちょっと苦手な後輩と体の関係があって、本人は顔も覚えてないとか言い出すから。なんか、そういうのは許せなくて…」

「そういう黒歴史作り出したのは、あなたに彼氏ができてからです。それまでは男子校だったし高校でも一切彼女作らず童貞を守っていたんですけど、その辺から荒れ出しました。
いろいろ変な噂立てられてますけど、実際には3人くらいだと思いますよ。
相手が恋愛感情を持たないことを条件として・・・
相手が好きって言い出したら速攻別れてました。一度も正式に付き合ったことがないっていうクズぶりですけど、とっとと告白してこいっていつも俺言ってたのに、本命にはグズグズしつづけるわけわかんない男なんです。でも、一途なのは親友の俺が保証します。」


「そうだとしたら私・・・・謝らなきゃ・・・」



涙が溢れてしまいそうだ。
ずっと私を好きでいてくれたこと。
当の私は彼の気持ち知らずに他の男と恋をしていたこと。
そのせいで、苦しい思いをしたこと。
こんなに友達思いな親友がいること。

ケープをしていて手がなかなか出せないでいると、女性スタッフがうんうんと頷きながらティッシュで涙を拭ってくれ、化粧を直してくれた。

カラーを終えた髪は生き生きとしていて、その髪を立花さんがふわふわとコテで可愛く巻いていく。

「あいつ、高校の時から髪巻いている時が特に好きって言ってましたよ。気持ち悪いけれどいつも触りたいって言ってた。はい出来上がり・・・かわいい・・・これで会いにいったらあいつめっちゃ喜ぶと思うよ。」

お店の外までお見送りをしてもらうと、正面から瀬戸口が現れた。

私を見つけるなり、
「え?なんで翠がここにいるの?」
と驚いていた。

「いや、あんまりにも可愛い子だったからカラーモデルお願いしたんだ。まさか、この子が翠ちゃんだったとはね。うわ、偶然にもお前の好みのヘアスタイルにしちゃったーー」
立花さんがわざとらしく答える。


「っつーか、お前翠の顔知ってるだろ!しかも、髪を気安く触ってんじゃねーよ。親友でも許さん」

「お前、美容師にそれ言うなよ。アホか」

くだらないやりとりに思わず笑ってしまう。

「ほら、早く行けよ!もう閉店してるんだからスタッフに残業させんなよ・・・」

「はいはい」

瀬戸口は私の手を握り歩き出した。
私は立花さんをはじめスタッフの皆様に頭をペコペコと下げながらお店を後にした。
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