Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

杉原颯太


「結婚することに関しては異論はありません。でも、その前に体の相性だけ確かめていいですか?」

初めて顔合わせをした女にそう言われたのは初めてだった。
30歳を目前に控えてもまだふらふらしていた俺に見兼ねて見合い話を持ちかけてきた両親は、大企業の社長令嬢であり線が細く誰からみても美人で、時折妖艶な笑みを浮かべる女を大変気に入っていた。
彼女の父は、俺の父と親友らしくいわゆる業務提携も兼ねるような両家に大変都合のいいお見合いで俺は嫌々ながら参加していた。

名前は金城心春。俺よりも三つ年下だった。
3兄弟の一番真ん中の俺は、父の会社を継ぐ気満々の兄と、ひたすら両親に可愛がられて育った弟の間に挟まれて、兄のように厳しく育てられつつも、可愛がられないいつも納得いかないポジションだった。
それが、影響したのか女関係には大変だらしない20代を送ってきた。
こういう自分に自信を持っていそうな女はとても苦手だけれど、自信のない女の依存には嫌気がさしていたところ。
よく付き合う女と、結婚する女は違うというけれどあながち間違っていないのかもしれない。
つやつやとした前下がりのボブがから覗く細い首元に思わず目がいく。
俺は今まで、髪が長い女とばかり付き合ってきたけれど、ボブもなかなかいいかもしれないと思いながら酒を口に含む。
俺の両親が繰り出すハイレベルな会話にも淡々と答える。
俺の母親はとても厳しく、バカな女を嫌うためにこうやって政治経済の難しい質問を歴代の彼女にしたことがあった。大体の彼女はそれで怯んでしまうことがあった。

「颯太くんのことは好きだけれど、お義母さんとうまくやっていける自信がないわ」と別れ際によく言われてしまう。実質、長男嫁も散々甚振られて同居して3ヶ月で、別居に至った。
そう、俺はもうここまでくると両親とうまくやってくれる人と結婚できればいいかななんて思っている。
両家好感触のまま終わったお見合いの後、強制的に二人きりにされた俺たちがこんな会話からスタートするだなんて予想しなかっただろう。

「そうだね。それは俺も大切だと思うよ」
そういった俺の手を引いた彼女は、その場で予約したホテルの部屋に俺を連れ込んでキスをする。
さっきまでのおとなしい雰囲気とは裏腹に、慣れた手つきでことが進んでいく。
恥じらいもなく服を脱いでいく姿に、驚愕しつつも俺だっていろんな女の子とそういう行為はしてきたわけで負けじと主導権を握った。
細くて、折れそうな体はしなやかで思わず見とれてしまった。


言葉も交わさずに抱き合った。
愛だの恋だのというよりもまるで動物が優秀な子孫を残すために試されているだけのようなセックスだった。

(体の相性ってなんなんだろうな~~~)


と考えている余裕もないまま淡々と結婚の話が進んでいった。
今まで生きてきた中で両親が一番嬉しそうな顔を俺に見せてくれたので、単純に嬉しかったのを今でもはっきりと覚えている。

入籍してまもなくして、すぐに心春の妊娠が発覚してさらに両親は大喜び。
兄夫婦のところは、不妊治療をしていてなかなか授かれないようで心春の株がどんどん上がっていく。
さらに、男の子とわかるとさらに大喜び。
兄夫婦と少しずつ亀裂が入っていくのをひしひしと感じた。

しかし、俺は仕事が多忙で出張が多かったり、早朝深夜の繰り返しで二人の寝顔しか見られない日々が続いていた。
たまに会う我が子と妻は可愛く、二人のためならどんな激務も乗り越えることができた。
早く起業でもして自分好きなように仕事をしたいと考えていた矢先だった。

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