Sync.〜会社の同期に愛されすぎています〜

出会い(杉原颯太)

肩を落とす翠ちゃんのお父さんに、俺は謝罪する。
「自分が勝手なことを言ってすみませんでした。」

「こちらこそ、わがままな娘ですまない」

「きっと、翠ちゃんが彼に恋してるから俺にとってより一層魅力的に思えたのかもしれませんね。」

お父さんは黙り込んだ。

「まあまあ・・・」
そこに翠ちゃんのお母さんが割り込む。

今泉家を後にした俺は、誰も「おかえり」を言ってくれないマンションへ向かう。
エレベーターに乗ろうとすると、涙ぐむ女がいた。
綺麗な黒髪で、翠ちゃんのように白い肌をしていて華奢だった。
翠ちゃんかと錯覚した俺は少し疲れているみたいだ。

今までの俺なら見て見ぬ振りをしていたと思う。
だけれど、その涙が俺の気持ちを代弁している気がしたのだ。
ポケットから出したハンカチを差し出すとその女は、「すみません」とか細い声で言った。


エレベーターに乗り込もうとした俺に「ここで住んでる人とさっき別れたんです。もうこのマンションへ来ることはないと思います。でも・・・ハンカチ・・・・」

彼との思い出が蘇るのか、涙が再びぽろんとこぼれ出す。

「返さなくていいよ・・・その代わり・・・俺もさっき失恋したんだ。君にちょっとだけ似てる子にね・・・」

その女は俺を睨みつける。

「それ、昔私を捨てた男にも言われました。とても迷惑してます。その子と会って文句言いたいです。」

あんなに泣いていたくせに気の強い女に思わず俺は驚いてしまう。
心春よりもわかりやすくて、翠ちゃんよりも気の強い女。
俺は思わず笑ってしまう。

「このあと一杯どう?失恋したもの同士・・・奢るよ・・・」

「そうやって失恋したところに漬け込む新手の詐欺?」

「そんなわけないじゃん。ちゃんと名刺渡すよ。」

名刺を渡すと、その女は表情を明るくした。

「喜んで」

分かりやすい女。
こいつ絶対俺が金持ってるってわかったんだろうな・・・
でも、きっと俺にはそのぐらい図々しくて分かりやすい女がいいのかもしれない。

そう思った。


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