Bloody wolf

うわぁ、大きい。

180㎝は越えてるんじゃないかと思える背丈の彼を見上げる。

「んだよ?」

アンバーの瞳が怪訝そうに揺れる。


「あ・・・大きいなと思って」

160㎝ある私でもかなり見上げないとだし。


「ふっ・・・」

彼は笑みを漏らす。

「なっ・・・」

ヤバい、かっこよすぎでしょ。

目の前の綺麗な男は見濡れの癖に、笑みさえもかっこいい。

トクンと跳ねた胸。

このままいちゃダメだと本能が警鐘を鳴らした。

「じゃ」

そう言って踵を返して、帰ろうとした。


「ヤベェ」

聞こえた彼の声と、ゆっくりと倒れてきた大きな体。


「はぁ?」

驚いた声を上げた私に覆い被さってきた大きな影。

やっぱりどこか怪我してるの?


「・・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・」

倒れてきた彼に抗議の声を上げた瞬間、耳元で低い声が聞こえた。


「・・・腹減って、動けねぇ」

「・・・はぁ」

漏れ出た大きな溜め息と、諦めにも似た感情が沸き起こる。


「・・・・・」

「少しだけ、歩ける?」

「・・・ああ」

「じゃ、肩貸すから、ちょっと歩いてくれる」

「・・・分かった」

「うち、そこだから」

すぐ近くに見えるマンションを指差してから、胸元で組まれた彼の手をパンパンと叩いて、解放を促すと彼の隣へと移動した。

彼の片方の腕を自分の肩にかけて、ゆっくりと歩き出す。


仕方ない···うちに連れて帰ろう。

ご飯食べさせて、彼の知り合いに迎えにいてもらうようにすれば良いや。

この時の私は、彼が危険な存在だとか、この後面倒な事に巻き込まれちゃう事とか、考えなかった。


ただ、一人の寂しさと心細さが分かるから、どうしても見捨てる事なんて出来やしなかったんだ。





カラカラと音を立てて運命が回りだす。

それは誰かの意思ではない。



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