Bloody wolf
お祖父ちゃんの所の人には雷牙君を含めて数人に会ってるけど、名前を知ってるのは2人だけ。

私のお迎え専属らしい雷牙君と、いつもスーツを着こなしてお祖父ちゃんの側にいる池崎信也(いけざきしんや)さん。

彼は40代のイケてるおじさんで、お祖父ちゃんの側近らしい。


私は、冷たく探るような彼の瞳が昔から苦手だ。

何度止めてほしいと言っても私を『お嬢』と呼ぶのを止めてくれない事も、正直気に入らない。



灯りのついた街灯が流れるように通りすぎていく。

息づく街並みと、そこに群れる人達。


楽しげに寄り添う家族、幸せそうに笑い会うカップル。

愛と言う名前の幻想に見せられた人達に、小さく息を漏らす。


愛なんて儚くて脆い。

私はそんなもの信じないし、要らない。


幸せそうな光景に、胸の奥がチクチク痛むのは、気のせいだ。

息苦しさを感じて、胸元を掴んだ。


呼吸できてる、大丈夫。

私は愛なんてなくても、呼吸できてるのだから。



全てを諦めたような顔をして息を吐いていた私は、雷牙君がバックミラー越しに憂い顔で見ていた事は知らない。










「響、しばらく見ない間にお姉さんになったな」

「一週間前に会ったよね」

孫の私を小さな子供でも見るような顔付きで言うお祖父ちゃんにそう返す。

一週間やそこらで、何も変わらないと思うよ。


「そうだったかの」

フホホと笑うお祖父ちゃんは自分の顎髭を触りながら笑う。

この人にとったら、きっと私は出会った頃のままなんじゃないかと思う。


いい加減小学生じゃないのを気付いてよ。


雷牙君に連れられてやって来たのは高級中華料理店で、今はそこの個室でくるくる回るテーブルにお祖父ちゃんと対面に腰を掛けていた。

テーブルには、次々と料理が運ばれてくる。


池崎さんは、部屋の隅でこちらを見守るようにひっそり立ってる。

これはいつもの事。


そこに居るならテーブルについて、一緒に食べればいいんじゃないかと毎回思う。

彼の目が気になって仕方ないんだよ。


「お祖父ちゃんは、仕事忙しいの?」

少し顔色の優れない様子が気になった。


「そうじゃな、最近少し周りが騒がしくてな」

憂いを帯びた瞳に、やっぱり忙しいのかと思った。


「歳なんだから、あんまり無理しない方がいいよ」

「ありがとう、孫が心配してくれることほど嬉しい事はないのぉ」

破顔したお祖父ちゃんは、嬉し顔で私を見る。
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