Bloody wolf
今日の放課後は、昨日みたいに捕まる前にさっさと帰らなきゃ。

テストを終えて、後片付けを急ぐ。


チャイムが鳴った瞬間に教室を出ようと心に決める。

千里には伝えてあるから、彼女もなんとか頑張ってくれるはず。


昨日の帰りみたいに及川君に捕まってたまるもんですか。

告白以来、やたらと話し掛けてくる及川君。

昨日はとうとう一緒に買えろと私達に付いてきたんだよ。


ほんっと、迷惑。

千里が言ってたみたいにサッカー部の彼は、かなり人気があるのか、学校を出るまで痛い視線に晒された。

帰宅途中の生徒からも、ギョッとした目で見られたんだよ。

途中で千里が寄る所があるって、機転を聞かせてくれたから、その場で彼と別れられたけど。

あのまま、一緒にいたらマンションまで付いてくる勢いだった。


家を知られるなんて、本当に冗談じゃないわ。




周囲のカリカリとシャープペンシルの動く音を聞きながら、私は教室の正面に掛けられた時計を見る。

得意な課目で良かったと、やり終えて裏返したプリントに目を落とした。


今日を乗りきれば、一緒に帰ろうだなんて誘われなくなるはず。

テストが終われば、及川君だってクラブが始まるし。


あんな光の中で生きてるような及川君が、私を好きだなんて物好きすぎるよ。

好きか? 嫌いか? って聞かれたら、迷わず何とも思ってないって答える。


私にとって彼は恋愛対象にはなりえない。

側にいて苦しくなるような相手は選ばないんだよ、普通。


私に似合うのは、同じ様に黒い何かを持ってる人じゃないかなぁ~多分ね。

フッと頭を過ったのは、随分前に助けた彼の事。


野獣のように暗く光るアンバーな瞳を思い出す。

見惚れるような容姿も。


あ・・・あれもダメだな。

危険すぎる。

血濡れの狼なんて、近付くだけで捕食されちゃうわ。


ないない・・・と首を左右に振った。

私も命は欲しいから。


生きることに意味を見出だせないのに、命が惜しいなんて笑えるけど。

何の為に生きてるのか分からなくても、私はきっとこの世に止まり続けるんだ。


結局のところ、私は何も出来ない弱虫なんだと思う。
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