課長の瞳で凍死します ~羽村の受難~
「は、はい、偶然っ」

 羽村が聞いていたら、何処が偶然? と言ってきそうだが。

 隆雄のために、羽村に見合いを断らないでくれと頼みに行ったなどとは言えなくて、そう言った。

「そうか。
 だが、まあ、お前が無理することはない。

 釣書と写真は中川に返しておくから、持ってき――」

 持ってきなさい、と言いながら、リビングに行こうとする隆雄の腕を雪乃はつかむ。

「ま、待ってくださいっ」

 隆雄が足を止めた。
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