触れたら、痛い。
突然だった。

知らない男に声を掛けられ、待ち合わせしてるので、と目も合わせずに煙草の煙を吐くと、嗅ぎ慣れた私の物ではない煙草の匂いが鼻を撫でた。

「お疲れ様。」

そこにいたのは、髪を真っ黒に染め、同じく黒いスーツを着た〈イカれた髪〉のあの男だった。

「は?意味わかんない?何あんた?」

余りにも変わり果てた姿に、眼球が彼を視界に入れたがらず、認識に時間がかかった。

「今夜はホテル行かないで、少し歩く。」

勝手に言い放って、履き慣れないであろう革靴をコンクリートに擦り付けた後、男はスタスタと何処かに歩き出した。

「マジで意味分からないんだけど…。」

男は聞こえているのかいないのか、どんどん先に歩いていってしまう為、仕方なく赤いヒールが地面に削られていくのを我慢して追いかけた。
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