幼な妻だって一生懸命なんです!

「無理です」

いやいやいや、おかしいでしょう。
話したことは仕事で数回。その私に何でプロポーズ?
何かの罰ゲーム?

見上げた長瀬さんを見つめたまま、この場を動けない。
彼は「ん?」と短く疑問符を打つと、まるでプロポーズは受け入れられて当然の事のように不思議そうな顔をしている。

「あの…人違いでは?それとも…」

まさか罰ゲームかなんて聞けない。
興味本位で注目されてしまっている中、消え入るような声で尋ねてみると

「瀬戸美波さんでしょ?Sweet Time Teaの。人違いでも罰ゲームでもないよ」

心の声が漏れていたのか、涼しい顔で私の考えていることを言い当てる。
ふと感じる好奇の目。
食堂のいつもの賑やかさが遠く感じ、私たちの周りにいる社員は、みんな私たちに注目しているのがわかった。

恥ずかしい。

「すみません」

小さくつぶやいて、立ち上がる。
食器が乗ったトレイを返却口へ置くと、足早にその場を去った。


「あ、おい」

長瀬さんの声が背中で聞こえた。
ついでに周囲にいた人たちの声も。

「嘘、なんで?」

女性からはジェラシーを含む声。

「まぢか」「あれ、誰?」

男性からは単純に疑問しかない。

なんで私なのか、この私が知りたい。
しかもこんなに大勢の人がいるところで恥ずかしいし、どうかしてる。
一目散に駆け出して自分の職場に戻って来た。

売り場にいた先輩の川西菜々子(かわにしななこ)さんが、慌てて帰って来た私の顔を見て不思議そうな顔しているけれど、接客中で私に話しかけることはなかった。
私は、そのままバックヤードに逃げ込んだ。



< 3 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop