幼な妻だって一生懸命なんです!


「いや!」

反射的に腕を振り払うと、またあの夜と同じような傷ついた顔の要さんが私の目に映った。
私にはこんなふうにしか対応できない幼さしかないのだ。
どうして良いのかわからない。

「少し時間をください。気持ちの整理がしたいです」

要さんは私の前に立ち「それ、どういう意味?」と怖い顔をして見下ろした。
首をフルフルと横に振るだけの私に「勝手にしろ」と出て行ってしまった。
私の方が怒っていたのに、彼が不機嫌になり出て行く後ろ姿を見ると逆に悲しくなった。

「おい、要」

樹さんもまた彼を追って出て行ってしまった。
オロオロとするばかりの社長。

事の成り行きをすべて見ていた多田さんが、私の肩を抱いて「大丈夫ですか?」とそばにいてくれた。

この後、どうやって帰ってきたかわからない。
自宅に戻っても要さんは、帰って来ない。
連絡もない。

話が中途半端なままだ時間が過ぎて行く。
自分から考えたいと言い出したくせに、彼が戻らないと不安ばかりが募って行く。
それでも自分から彼に連絡をすることが怖くて、悔しくて、ただひたすら彼が帰ってくるのを待つしかなかった。

しかし、今彼が戻ってきたら、私はまた悪態をついて要さんを傷つけるだろう。
話し合うことも、彼から話を聞くことも、受け止められない幼さが邪魔をする。
ふと頭に浮かんだのは祖母の顔だった。

「おばあちゃまに、会いたい」

私は両親と喧嘩をしたり、学校で嫌なことがあったりすると祖母の家に行くことが多かった。
当時は祖父もいて、二人は無条件に私の味方でいてくれた。
甘やかしてくれるのだ。

< 78 / 90 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop