クールな部長の独占欲を煽ったら、新妻に指名されました
捨て身の告白
 



「だから、ホテルの部屋に忘れた書類を取りに行くだけだって」



 繁華街にあるビジネスホテルの入り口で、私を見下ろしにやにやと笑う男の人。
 強引に腕をつかまれた瞬間全身に鳥肌がたった。理屈じゃなく本能的で、この人に触れられるのは嫌だと感じた。


「あの、私はここで待っていますので……」

 私が彼の腕をさりげなくほどこうとすると、逆にその手に力がこめられた。
 乱暴に腕を引き寄せられ、バランスを崩した私は転びそうになる。
 そんな私の体を支え、彼は親切そうな声を出した。

「ほら遙ちゃん、もう立っていられないくらい酔っぱらってるじゃん。こんなところにひとりでいたら、悪い男に連れ去れちゃうよ?」

 確かに私はかなり酔っぱらっていた。会社の先輩に頼み込まれて飲み会に参加した私は取引先の銀行員である彼、桑井さんに強引に勧められ自分の許容量以上のお酒を飲んでしまったから。

 そのせいで頭がぼうっとしているし、足もともおぼつかない。
 それでもしっかりしなきゃと自分に言い聞かせ、桑井さんの胸をやんわりと押し返す。



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