全ては君の思うまま
わがままを言わせて
ビストロ部門で働きはじめて1週間。
気力とともに体力も落ちていることを痛感する。

店長の田神(たがみ)は、私の同期で人をまとめることに関してはプロ。

なんだけど、こうイマイチなんだよなぁ。


このビストロのイメージは、気軽でおしゃれ、口説くってよりも、お互いの壁を壊していこう、みたいな安心感。

それに高級感を足し、女性一人でも飲めるくらいの、大人っぽさを演出。

演出、なぁ。


この前のリニューアルで内装はちょっと、暗めになり落ち着いた雰囲気。そして飾ってあるワインの瓶もライトの光を受けてかなり味がある。

「俺が体育会系だから、みんな空気がこんな感じなのよ」

1日目が終わり、オールバックで固めて見た目だけは渋く決めてる田神がため息をつく。
私も同じくため息。

品…ってなんだっけ。

それにしても大学時代の居酒屋バイトがこんなところで役立つとは。でもワインの注ぎ方、こうイマイチ思いきれないところがあって、納得いかない。

傾けて、ここ、というポイントですっと弛める。
まるで釣りみたいだ。でも獲物があるわけではなく、そこにはワイングラスの美しさが一番際立つ位置、それがワインを一番香り高く味わうことのできる量、ということなんだけど。

難しい。特に、片手で注ぐのは、今までも何回も練習してきたけれど毎回緊張する。
< 40 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop