@YUMI KO
☆☆☆

家に戻った時、エマはいつものようにあたしに抱きついて来た。


「エマ、よく1人で帰れたね?」


しゃがみ込んでそう言うと、エマは首を傾げた。


「覚えてない」


「え?」


「どうやって帰ったか、覚えてなぁい!」


エマはそう言い、楽し気に笑う。


あの時、やっぱりエマはエマではなくなっていたのかもしれない。


だけどとにかく無事に帰っていた事には安堵した。


両親はアチコチ怪我をして泥だらけになって戻って来たあたしを見て驚いていたけれど、あたしは階段から転げ落ちたと、嘘をついた。


軽くシャワーだけ浴びて、すぐに自室へと向かう。


食欲もなくて、ご飯を食べることもできなかった。


あたしの目の前で貴久は連れていかれてしまったのだ。


思い出すと、今更ながら涙が滲んで来た。


「どうしてそんなひどいことをするの?」


あたしは誰もいない部屋の中でポツリと呟く。
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