ずるいひと
気付いたら、三人いつも一緒だった。

優しくて頼もしい優也と、しっかり者で優しい姉と、わがままな幼い私。

でも、姉である亜貴の誕生日は四月一日、私は四月二日。
優也は亜貴と同じ学年だった。

「なんで私だけ学年違うの?」と嘆く私に、困っていた両親ではなく姉がいつも言っていた。


「心配しないで。学年が違っても学校が違っても、優ちゃんも私も真貴(まき)と一緒に遊びたいよ」


「ほんと?」

「ほんとだよ」

「優也も?亜貴は、優也独り占めしない?」

「しないよ、三人一緒だよ」

「ほんとにほんと?ずーっとだよ?」

「うん、ずーっと」

中学生になっても高校生になっても同じように慰めてくれる。
そんな優しくて残酷な姉が大好きで大嫌いだった。

だって、彼女の目はいつだって彼を追っていたから。


そして、しばらくは言葉の通り、放課後になると三人で待ち合わせをして遊んだ。
喉が枯れるまで公園で歌い続けた時も、宛のない自転車旅をして帰りが夜中になって怒られた時も、進路について語った時も、間違いなく三人だった。

でも、私はずっと優也が好きだった。

私は何度か優也の部屋に一人で遊びにいったことがあるけど、私は玄関からちゃんと優也に会っていたから何も疚しくなかった。
実際やましいことは何一つなかった。

だって、三人ずっと一緒だと信じていたから。

亜貴にも報告していたけど、よかったねとしか言わなかった。


でも、知ってしまった。

中学三年生の時、まだ帰ってきていない亜貴の部屋に漫画を借りに入ったら、不意に窓が揺れた。

コンコンコンコン…

窓から入ってきた優也と目があった私はどんな顔をしていたか分からない。


ずるい。


その日の夜、部屋を交換してほしいと姉に言ったら、亜貴は泣きそうな顔で「私が高校卒業したらね」と言ったのを今でも思い出す。

「なんで交換したいの?」とは聞かれなかった。

私は苛立つ気持ちを抑えて「絶対だよ」と指切りを強要した。
でも今日一つだけお願いがあるんだけど…と切り出したのは、姉が断らないだろうと思っていたからだ。

「今日一日だけ、部屋交換してくれない?」

亜貴は私が優也を好きなことに気付いていながら、気付かないふりをしてずるいやり方をしていた。
だから、私も気付かないふりをした。

それだけ。
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