Secret Music
「響也くんは誰が好きな人いるの?」

演奏が終わった後、不意に鳥本さんが訊ねてくる。いきなり聞かれたものだから驚いた。

「えっ!?そんなこと急に聞かれても……」

恋は叶わないことが多い。でも、相手を想っている時が楽しいと聞いたから別にいいかなって思ってる。

「いないよ」

「じゃあ気になる人は?」

「それもいないかな」

僕がそう言うと、鳥本さんはプクリと頰を膨らませる。まるで駄々をこねた小さな子どもか頬袋にエサを詰め込んでいるハムスターだ。

「特別だからこうしてそばにいるのに!」

鳥本さんは怒った目で僕を見つめる。その目には、なぜか涙……。

「ああ〜、もう!!悔しい〜!!」

鳥本さんはそう言って、僕の胸ぐらを掴んで揺さぶった。こんな子どもっぽいところもあるんだ。こんな時なのに、僕は驚きもせずに鳥本さんを見つめる。

「鳥本さん」

僕がそう呼ぶと、鳥本さんの動きがピタリと止まる。そして、真っ赤な顔で僕を睨んでいた。
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