夫婦はじめ~契約結婚ですが、冷徹社長に溺愛されました~
「普段、誰かと出掛けたりしないんですか?」
「しない」
「進さんとも?」
「あいつはいつも知らない女といるからな。毎週、会う相手が変わる」
「それはまた……」

 なんとなく恋多き人らしいとは聞いていたけれど、本当のことらしい。
 あの進さんですらこんな風に出掛けないとなると、ますますこの時間を特別に感じてしまう。

(……嬉しい)

 そんな気持ちがまた胸に込み上げた時、まだ握られたままの手に気付く。

「春臣さん。手……もう平気ですよ」
「ん? ……ああ」

 反応してくれたのに離してくれない。

「引っ張ってもらわなくても自分で歩けます」
「そういうつもりじゃなかった」

 珍しく、春臣さんが逡巡した様子を見せる。
 何を言い淀んでいるのかと思ったら、手の握り方を変えられた。
 指と指を絡めて、手のひらを合わせる。

(これは俗に言う恋人繋ぎ――)

「繋ぎたかったんだ」

 え、と顔を上げる。
 春臣さんはいつもと変わらず愛想のない顔をしていた。

「嫌ならやめておこう」
「あ、いえ、あの」

 ほどけそうになった手を慌てて私も握り返す。

「大丈夫です、このままで」

 この人の前で何度大丈夫と言ったのか。
 そんなことを考える余裕もなく、なぜか離されまいと必死になる。

「私も繋ぎたかったんです」
「そう思っていたならよかった」

 明らかに春臣さんはほっとしたようだった。
 得体の知れない感情がもやもやと胸を満たしていく。

(繋ぎたかったって、どういうこと?)

 私も同じ言葉を返してしまった。
 けれど、どうして自分がそう言ってしまったのか分かっていない。

(……デートだから?)
< 62 / 169 >

この作品をシェア

pagetop