少女は花のナイフをもって【完】
「あ、」
思わず発してしまった声に、相手はふにゃっと顔の筋肉をゆるめて笑う。
よく知ったその顔に、わたしも安心して笑い返した。
準備室の扉を閉めて、足を進める。
準備室特有の埃の匂いと、まだ外は明るいはずなのにこの空間に広がる不気味な雰囲気。
その真ん中に座るひとは、去年同じクラスだった男の子。
「眞島くんかあ」
「久しぶり、野坂。ひとり?」
「あ、うん。友達誘ったけど断られた」
「俺も。でも、化学苦手だから行っておきたいなあって」
「眞島くん苦手なの?私も一番苦手な教科なの」
一緒じゃん、なんて。
苦手なことで盛り上がるのも悲しい気がするけれど、テスト対策に参加する人が私以外にもいたことに安心する。
それに、眞島くんと二人なら楽しそうだ。
同じクラスだった時に、彼がとても面白い人だということを知ったから。
去年からなんとなくずっとLINEでのやり取りを続けている人でもあるし。