少女は花のナイフをもって【完】





「ていうか、先生、口癖あるよね。言葉の途中で、絶対に、んんん、って言うの」
「ああ、あれ?口癖っていうか咳みたいな?ちょっと悩ましげな声だよね、クるものがあんだよなあ」
「ええー、眞島くん変態じゃん」
「はは、喘いでるように脳が変換すんの、俺の意思とは関係なく」
「最悪、軽蔑しまーす」
「男なんてそんなもんだからな? あ、でも、秘密にしとこ。なんか、先生さ、一部からあんまり好かれてないし、そういうの馬鹿にするやつとかいるじゃん?」
「うん、そうだね。化学教えてくれたしおしるこもくれたし、秘密にする」
「はは、うん。そう、おしるこくれたし」





眞島くんは悪戯っ子のように笑って、おしるこをすする。



私はとても誇らしかったのだ。


先生の癖を発見したということは、先生の知らない部分を知ったということで、その分先生との距離が縮まった気でいた。
好きになった大人な先生が、手を伸ばせば私たちのところまでおりてきて、友達みたいな距離になる。そのことが嬉しかった。




それに、眞島くんの秘密も知っている。

私は、とにかく誇らしい気持ちでいっぱいだった。
それに、優越感も抱いていた。






だから、眞島くんと、秘密にしよう、と約束したことなんて、おしるこの缶をゴミ箱に捨てる頃には忘れていた。










すっかり、忘れて、いた。傲慢、そのものだった。










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