少女は花のナイフをもって【完】
眞島くん。
鴉の身体から羽がぬけおちる。
あの瞬間と同じくらい、あなたとの約束を破るのは簡単だった。
眞島くん。
ゆっくりと近づいてくる足音に、私はぎゅっと身体を縮こませる。
毛布を強く握りしめて、浅く息を繰り返す。
場所をメッセージでは告げていないけれど、この数ヶ月で確かに他人に戻ったはずの眞島くんが、今、ここに来たのだと、確信する。
正確には、願い、だった。
付き合ってるわけでもない。
本当のところ、眞島くんのことが男の子として好きかと訊ねられても、分からないという答えしか私の中にはなくて。
でも、あの日、二人で先生のテスト対策をうけて、先生からもらったおしるこを飲んで、笑った。
先生の優しさとかお茶目なところに触れた、あの時間を共有している。
今、私が犯罪者になれるのも、私を裁けるのも、眞島くんだけだと思った。
世界で、たったひとり、
眞島くんしかいないと、と思った。