桜 咲く頃に…
「香純ちゃん」

聞き覚えのある、声の方へ目をやると
見覚えのある人が立っていた。

エレベーターで、すれ違った人…

(あっ…)

その瞬間、脳裏にあの男の子が浮かんだ。

「楓…お兄ちゃん…」

「覚えててくれたんだね」

「忘れることなんて…」

いいかけた言葉を、飲み込んだ。
これ以上言えない。
今の私に、言う権利はないから。

「“約束”を、果たしに来たんだ」

あの時と、変わらない優しい声で
私に話しかけてきた。
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