擬似結婚ー極上御曹司の一途な求愛ー

 連城が辞めたのを聞いて心底残念そうにしていたのは、高橋だけである。

 高橋はあの性格を知っても恋心を抱くのだろうか。いつも冷静な高橋が掃除婦の正体を知ったらどんな表情をするのか。

 ふとそんなことを考えてしまったけれど、彼にとってももう関わりのないことだからと、その情報に蓋をした。

 もう会わない女性ならば、夢を持っていた方がいい。そんな気持ちだ。

 家のソファに腰かけてそんなことを思い返していると、彼から声がかけられた。

「亜里沙。珈琲入ったよ」

 彼が亜里沙にマグカップを渡してくれる。ほわほわと立ち上る湯気で、部屋の中が癒しの空気で満ちていく。

「ありがとう。う~んいい香り」

「だろ? 配合に仕入れたばかりの豆を使ったんだ。味もイケるはずだ」

 今夜は久しぶりに彼が早い時間に帰宅したので、ゆっくりお話ができる。

 夕食後にソファに並んで座り、彼のブレンドした珈琲を飲みながら過ごす時間は至福だ。

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