いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
これは私が苦し紛れに吐き出した言い訳を面白がってなぞったんだろう。

私が添い寝を断ったことを根に持っているわけではないと思うけれど、ちょっと意地悪をされた気分になった。

安藤部長を玄関で見送って、ドアが閉まり一人になった途端、住み慣れた狭い部屋がやけに広く感じた。

こんな適当な結婚はあり得ないから早く離婚して欲しいと思っていたはずなのに、一緒に食事をするのも全然イヤじゃなくて、二人で出掛けることを楽しみだと思っている。

いつの間にか私は、安藤部長といることが少しずつ心地よくなっているのだと気付いた。

いや……ただ一緒にいることに慣れてきただけなのかも知れない。

田舎から出てきて何年経っても垢抜けず、女性としての自信のなさから卑屈になりがちな私を、否定せずに受け入れてくれるところとか、まっすぐな目で見つめてくれるところには、今まで付き合った人にはなかった懐の深さを感じる。

仕事中は完璧な上司で、仕事を離れると少しわがままだったり甘えてきたり、そうかと思えば甘過ぎる言動で私を翻弄したり、なんだかよくわからない人ではあるけれど、悪い人ではないと思う。

だからと言って好きになるかどうかは別問題だ。

妙な勘違いだけは起こさないようにしようと思いつつも、その夜は胸の高鳴りを抑えることができなかった。



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