いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
安藤部長と話しているうちに、航太の荷物をどうしようかと悩んでいたことがバカらしくなった。

突然荷物だけ着払いで送り付けられたら、航太はきっとわけがわからなくて驚くだろう。

理由を聞かれたら、『私はもう別の人を見つけたから、航太も新しい彼女とお幸せに』なんて言うイヤミのひとつでも言ってやろうか。

そんなことを考えていると、安藤部長が両手で私の頬を包み込み顔を近付けた。

至近距離にあるきれいな切れ長の目で見つめられ、私は思わず息を飲む。

「ところで今日はこのまま泊まっても?」

この男は昨日に引き続き、どさくさにまぎれて何を言い出すのだ?

最初からそのつもりだったのか、それともほんの気まぐれなのかはわからないけれど、私には安藤部長を泊める理由などない。

「いいわけないでしょう。絶対にダメです」

「明日は休みなのに?」

「ダメなものはダメなんです」

キッパリと断ると、安藤部長は小さくため息をつきながら苦笑いを浮かべた。

「はぁ……夫婦なのに一緒に寝るだけでもダメか」

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