いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
いちいち反応すると相手の思うツボだから、これからはできるだけ大げさに反応しないように気を付けよう。

「断固お断りします」

私が冷たく言い放つと、安藤部長は満足げに笑いながら私の頭をポンポンと軽く叩いた。

「真央ならそう言うと思った。あいつのことも、それくらいキッパリと切り捨ててやれ。じゃあ、また明日な」

涼しい顔でそう言い残して帰っていく安藤部長を見送ったあと、さっき安藤部長の唇が触れた頬を意味もなくさすってみる。

時間差でどんどん速くなる鼓動をなんとか鎮めようと、何度も大きく深呼吸をしているうちに我に返り、夜遅くに一人でこんなことしてバカみたいだと思う。

航太のことを切り捨ててやれと言いたかっただけなら、いちいちキスなんかしなくてもいいのに。

恋愛で痛い目にあったところなのに、安藤部長の言動に振り回され心を乱されている自分が情けなくて、ため息しか出ない。

こんなことでは先が思いやられる。

今の私に一番必要なのは、いついかなる状況でも平常心を保てる鋼のように屈強な心臓であることは間違いないだろう。



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