いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
駅までの道のりを一人で歩きながら、優花の言葉を頭の中で反芻した。

考えてもどうにもならないことは、考えるほどに卑屈な気持ちをこじらせてしまいそうだから、頭であれこれ考えるのはやめておこう。

知らず知らずのうちに自分が作っていた枠を取っ払って、心で感じるままに自由に生きられたら、私も打算無しの本気の恋愛ができるだろうか。

そんなことを考えながら鞄のポケットを探り、電車の定期を取り出して顔を上げると、通りの向こうにあるレストランから安藤部長が出てくるのが視界に入った。

なんとなく顔を合わせづらくて、見つかりませんようにと思いながら顔をそむけかけた瞬間、安藤部長のあとに続きとても綺麗な女の人が店から出てきた。

笑いながら話している様子から、二人がとても親しい間柄であることがわかる。

安藤部長には私以外にも一緒に食事をする相手がいるんだ。

だったら夕飯を断ったことを私が気にする必要なんかない。

綺麗な女の人と楽しそうに笑っている安藤部長に気付かれないように踵を返そうとすると、その女性を安藤部長が抱きしめる光景が目に飛び込んできた。

抱きしめられた女性は安藤部長にしがみついて顔を近付ける。

私の目には二人がキスを交わしたように見えた。

ほんの一瞬の出来事に目を疑った私は、思わず後ずさりして、振り向かずに足早に駅へと向かった。


< 218 / 991 >

この作品をシェア

pagetop