いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
安藤部長は『真央が好きそうなの見つけたから』と言っていたけど、一体どんな気持ちでこの練り切りを買ったんだろう?

箱に印字された賞味期限の日付けは、一昨日ですでに切れている。

こんなに愛らしいものをそのまま捨ててしまうのは忍びないし、安藤部長のせっかくの気遣いを無下にするのも心苦しいので、賞味期限は切れても腐ってはいないから大丈夫だと思いながら、練り切りをそっと口に運んだ。

滑らかな餡の上品でほどよい甘さが口の中に広がる。

「美味しい……」

思わず呟くと、じんわりと視界がぼやけ、溢れ出した涙が頬を伝って、ポタリとテーブルの上に落ちた。

本当は安藤部長と他愛ない話をしながら食事をして、熱いお茶を飲みながら一緒に食べたかった。

何も見なかったことにして笑っていれば良かったのかな。

安藤部長が別の人を好きでも、一緒にいられるだけで幸せだと思えたなら、私はきっとそうしていただろう。

だけど私にはそれができなかったのだから、自覚したばかりの安藤部長への想いは潔く捨てるしかない。

次に安藤部長と夕飯を共にするときには、離婚届を用意して、私の方からあの人のことを話して離婚を切り出そう。


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