いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
大切な人たちに裏切られている池崎課長が不憫ではあるけれど、子どもたちのことを考えると、夫婦の問題に他人の私が口をはさむべきではないと言う結論に至る。

今日一日、私は心を無にして、与えられた役割に徹することにしよう。

池崎課長はベビーサークルの中で歯固めをかじっていた赤ちゃんを抱き上げ、私の方に連れてきた。

「小柴、この子がうちの末っ子の杏樹(あんじゅ)。よろしくな」

杏樹ちゃんは池崎課長の腕の中で、少し不思議そうに私を見ている。

「人見知りとかしませんか?」

「いや、今のところはわりと平気らしい」

私がだっこしても、杏樹ちゃんはぐずったりいやがったりせず、ニコニコと笑っている。

田舎にいた頃は、よく親戚や近所の家の赤ちゃんの子守りを頼まれていたので、久しぶりに接する赤ちゃんの匂いや柔らかさがやけに懐かしい。

「ふふ……可愛いですねぇ」

「だろ?うちの姫は何しても可愛いんだよ」

会社ではクールでドSな池崎課長の親バカ全開の姿が見られるなんて、とてもレアな経験だと思う。

池崎課長推しの社内の女子が見たら、そのギャップで萌え死ぬんじゃなかろうか。

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