いきなり婚─目覚めたら人の妻?!─
「これ必須だからよろしく」

安藤部長はさわやかに笑いながらそう言って、メモ用紙を人差し指の先でトントン叩く。

表の顔と裏の顔のギャップが甚だしいな。

私に拒否権はないってことか。

「小柴さんは本当に仕事が速くて助かるな。でも期限まではまだ余裕があるし、続きは明日でいいよ」

「ありがとうございます、そうします」

そろそろお腹も空いたことだし、このページの入力が済んだら今日の仕事はおしまいにしよう。

私が入力作業を終えて帰り支度を始めても、東さんは何をするでもなくその辺をうろうろしていた。

仕事をしているふりをしているのがバレバレだ。

一体何がしたいのか。

帰り支度をしながらこっそり様子を窺ってみたところ、東さんが安藤部長の方をチラチラ見ていることに気付いた。

もしかして東さん……安藤部長のことを狙ってる?

たしかに安藤部長はルックスもいいし、経歴も華々しく、若くして出世したエリートで抜群にハイスペックだと思うけど、ちょっと欲張り過ぎじゃない?

東さんは美人でスタイルもいいし、本人もそれを自覚しているから、落とせない男はいないと思っているのかも知れない。

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