キミに伝えたい愛がある。
吹奏楽部とのお別れも近づいて来ていた。


頼りないし、下手っぴだし、嫌われていたんだろうなとも思う。


特にあの子には...。



「愛宮先輩、ジャズは私がファーストでよろしいでしょうか?」


「あ、うん。よろしくお願いします」


「じゃあ、セカンドが先輩と志織ちゃんで、サードが舞ちゃんでいきましょう。空先輩に楽譜もらいに行ってきますね」



私の時代は終わった。


というより、始まってもいなかった。


莉音ちゃんが入ってからというもの、先輩の人気も独り占めし、私は1つ上の先輩には冷たい目で見られていた。


私は最初から莉音ちゃんに負けていたんだ。



「ちゆり先輩、大丈夫ですか?」



舞ちゃんと志織ちゃんが私のところにやって来る。



「莉音ちゃん、ヤキモチなんです。空先輩がちゆり先輩に特別優しいから」


「えっ...そうなの?」


「自覚なかったんですか?」



私はこくこくと頷いた。



「ちゆり先輩のことだけ、ちゆりちゃんって名前で呼んでるし、妙に一緒に練習しようとするし。ちゆり先輩がサードにってのも懇願したのは、空先輩ですよ」


「でも空くん、最初は私にファーストやってもらいたいって言ってたんだよ」


「さあどうなんでしょう?本心は違っていたのかもしれませんよ」



そうだったのか...。


真実が明らかになった今、もう成す術もないけれど、なんだかモヤモヤとした気持ちになった。



「そんな感じだから知らないんですね、莉音ちゃんの気持ちも」



舞ちゃんが見つめてくる。


私はもう理解していた。



「もしかして...莉音ちゃんは空くんのこと...」


「...その通りです。だから、スケッチブックも盗んで...1階の男子トイレの前に」


「舞ちゃん、知ってたの?」


「私達が知らされたのは、ちゆり先輩が部停になったと空先輩に聞かされてからです。急に莉音先輩が笑い出してここで私達に話したんです。すごく得意げで...怖かったです。今まで黙っててすみません」



泣きそうになる2人の肩に私はそっと手を乗せた。



「教えてくれてありがとう。私なら大丈夫。莉音ちゃんの実力が確かなのは知ってるよね?2人は莉音ちゃんにちゃんと着いて行ってね。3人で協力すれば、絶対良いハーモニーになるんだから」


「ちゆり先輩...」


「泣かないで。後1ヶ月はあるんだから。それまで一緒に頑張ろう」


「その後もちゆり先輩に会いに行っても良いですか?」



私はもちろんと笑顔で答えた。


嬉しかった。


自分は先輩失格だって思っていたから。


短い間だったけど、後輩に少しは大切なことや自分の想いを伝えられたかな?


2人には、莉音ちゃんとは違う、温かくてみんなを包み込んでくれるような音色で曲を奏でてほしいな。


そんなことを思いながら、私は2人と約束した。



「来年の大会、必ず見に来るから」



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