悔しいけど好き
……


「久しぶり!よく来たわね!」

「お、お久しぶりです」

いつも険しい顔で厳格な雰囲気を漂わせていた溝口さんは今日は機嫌がいいのかにこにこで、緊張気味だった私は拍子抜けした。

「担当やめてどうしているかと心配してたのよ?神城くんに色々あなたの近況は聞いてたけど顔色も良いようだし元気になって良かったわ」

「え?あの…」

「溝口さんはお前の事だいぶ心配してたんだぞ?死にそうな顔して営業に出るもんじゃないな?」

「え…そうだったんですか?」

「やっぱり…自覚なかったのね?いつ倒れるか心配でやめればって言ったこともあったけどあんまり聞いてなかったものね?」

「…面目ございません…」

まさか、溝口さんにまで心配されてたとは知らなかった。
辞めればと言ったのも私の事を想ってだなんて…

「神城くんもいい営業さんだけどおおざっぱ過ぎてね、あなたはとことんまで私の要望を聞いてくれたから居なくなって残念に思ってたのよ」

大いに笑う溝口さんに合わせて、あ、あはは…と笑うも横を見れば顔を引きつらせている鷹臣がいて笑うに笑えない。
後で、とばっちりを受けるのは私だ。
怖い怖い…

「でも、あなたがアシスタントをしっかりやってくれてるお蔭で最近はだいぶいいものになってきたわ。あなたは営業で前線にいるよりアシスタントとして営業を支える方が合ってるのかもね?」

「え…そう、ですかね?」

ニコニコと頷く溝口さんに嬉しくてついニヤケてしまった。
今までやってきたことも今やってることも無駄じゃなかったんだなって営業時代の自分を昇華できた気がした。

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