最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
 
――どこまでもどこまでも白が続く。

果てしなく白い世界の真ん中に、その青年は立っていた。

「……兄上……」

呼びかけた声は威厳のある低いものではなく、少年独特の高さと儚さを含んでいた。

「兄上……ローベルト」

呼びかけても、青年は振り向かない。鈍色の髪が風に微かに揺れるだけで、微動だにしなかった。

「……怒っているのか?」

おずおずと尋ねながら青年に近づいたイヴァンは、彼の頭を見上げる。この見慣れた身長差の視界は十年前――十五歳だったときの自分と兄のものだ。

「どうしてそう思うんだ?」

ローベルトから言葉が返ってきたことに、イヴァンは安堵する。けれどその答えは喉につかえてうまく口に出せなかった。
 
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