最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
「――ナタリア……」

呼びかける声は、涙に掠れていた。

ナタリアの背を強く抱きしめ返し、肩口に顔をうずめてイヴァンは泣いた。

皇帝の涙を、咎める者は誰もいない。彼はようやく手に入れたのだ。十年以上愛し続け、孤軍奮闘し、何度も折れそうになりながら奮い立たせてきた心を包んでくれる妻のぬくもりを。

側近も侍従や宮廷官らも、その場にいた者たちは皆胸を熱くし涙を拭った。偉大なる君主が愛を貫き奇跡を勝ち得たその姿を、彼らは誇りに感じるに違いなかった。

窓から眩い光を感じ、ひとりの侍従がカーテンを開いた。窓越しの光景に気づいた者たちが、小さく歓声を上げる。

「……イヴァン様……」

光に気づいたナタリアも窓を振り返り声をあげれば、イヴァンも「ああ」と感嘆の呟きを漏らした。

空は青く澄み渡り、煌めく太陽が柔らかな光を降り注いでいた。厚い雪雲の姿はもうない。――春だ。

例年より半月近い春の訪れに、イヴァンもナタリアも、宮廷の者も、スニーク国中の者が胸を躍らせる。

希望溢れる光景に笑みを湛えるイヴァンとナタリアの隣では、小ぶりの花瓶に飾られた白い雪割花が、陽の光を受けてキラキラと煌めいていた。
 
 
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