最愛なる妻へ~皇帝陛下は新妻への愛欲を抑えきれない~
 
スニーク帝国は大陸でも一、二を争う強豪国だ。

およそ二百年前に現在のアスケルハノフ王朝になってから、経済、文化ともに目覚ましい発展を遂げ、近代化が進むとともに最強の軍事力も誇るようになった。

大陸の北部に広大な土地を有してはいるが、その半分以上が作物も育たない極寒と豪雪の地だ。

残りの土地も寒さに強い作物は育つが、冬が長く一年のうち半分以上は雪が積もっている。

帝都であるコシカも短い夏が過ぎれば秋の風を感じる間もなく冬になり、西と東の文化を融合した独特の街並みは白一色に覆われるのだった。

そんなコシカの都に、そろそろ雪が降り始めようかという季節の頃。

三ヶ月前にアスケルハノフ王朝六代目皇帝として王座に就いたイヴァン・ロマーノヴィチ・アスケルハノフが、己の結婚を発表した。

相手は隣国シテビアの王女、ナタリア。イヴァンより五歳年下で母方がアスケルハノフ家の血を引く遠縁でもある。

小国シテビアは独立国ではあるがほぼスニーク帝国の支配下にあり、スニーク帝国の権威を維持するためにも、この結婚が有効なのはいうまでもなかった。

国益の観点から見ても、家柄や年齢から見ても問題がないどころか好ましいこの縁談に、スニーク帝国の廷臣らがそろって反対の声をあげたのは、たったひとつの問題があったからだ。

それは――。

「なりません! 〝雪姫〟を娶られるなど、国益以前の問題です!」
 
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