番外編 冷徹皇太子の愛され妃
「いや、迷惑をかけているとかではなく、なんだ、その……お前の身体を気遣う者も多くてな。もう、ひとりだけの身体ではないんだから、危険な行動は控えた方がいいだろう」

ウォルフレッドの言葉の意味を理解して、フィラーナは少し気まずくなり、彼から視線を外した。

まだ懐妊の兆しはないが、夫婦として毎晩床を共にしているのだから、いつでもその可能性はある。もし、それに気づかないままうっかり激しい運動をして、取り返しのないことになったら……と周囲が心配するのも当然のことだ。

「わかった、もうやめるわ」

「どうしても剣の相手をしてほしいのなら、俺がお前の体調を見ながらやってやるから」

「ええ……ありがとう」

納得するように微笑むフィラーナを前に、ウォルフレッドはやや複雑な思いだった。

周囲に心配の声が上がっているのは事実だ。しかし、彼には個人的な悩みがある。

それは、訓練中のフィラーナの服装だ。

この国に、女性の騎士制度はないので、フィラーナはいつも乗馬用のズボンを着用していた。そして、白いシャツ一枚で剣を構える。ドレスの時とは違い、その姿は凛々しく、彼女が真面目に剣術と向かい合っていることは充分伝わってくるのだが……時間が経つと問題が顕著になってくる。

ズボンは足と太ももにピタリとフィットしているので、女性特有の身体の線が浮き彫りになるし、シャツは汗を吸って肌に張り付き、艶かしくなる。フィラーナ本人に自覚がないことは承知しているが、騎士たちがどんな目で自分の妻を見ているのかと想像する度に、ウォルフレッドは心の中が黒い感情に支配されるのを感じた。
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