If・・・~もしもあの時死んでいたら~

恨み続けるのは違うのかもしれない

 奈々美の研修も終わり、純平さんから離れる事になった。
 とは言っても、同じ事務所にいるんだし、困った事があったらいつでも相談に乗るよって純平さんが言うもんだから、廊下から事務所を覗いた時、よく一緒に話しているのを見掛ける。
 それでも最初の頃より腹も立たなくなった。
 仕事だもん。
 そう割り切ってわたしも自分のポジションに戻る。

「お疲れさん」

 いつものように、めぐみと食堂にいる時に、純平さんがやって来た。
 今日はそれだけじゃない。
 
「一緒にいいかしら?」

 って言って、安田さんと瀬高さんも加わる。
 純平さんを含め、二十九歳トリオと、わたし達十九歳コンビ。
 
「安田さん、昨日はご馳走様でした」
「いいえ。どう致しまして。あの店、結構美味しかったでしょ?」
「はい、とても」
「今度は純平に連れてって貰いなさい。Bセットもお勧めよ」

 昨日ご馳走になったのはAセットだった。
 Bセットにも凄く興味を持った。

「あら、安田さんと小田さんが食事に行くなんて珍しいじゃない」

 瀬高さんの、わたしを差し置いて……という表情がちらりと見えた気がした。

「初めてよ。小田さん、来月誕生日でしょ? その前祝い」
「誕生日まで知ってるなんて、仲が良いじゃない」
「あら、瀬高の誕生日も知ってるわ。十二月五日でしょ?」
「そう! 嬉しい。それじゃ、その時わたしもご馳走になっちゃおうかな?」
「いいわよ。それじゃ、ラーメンね」
「あ~どうしてわたしの時はそんな安い店なのよ~」
「あんたと小田さんは稼ぎが違うでしょーが。わたしと同じ給料貰っててずうずうしいわね」
「う……ん。まっ、いいか。それじゃ、ラーメンと餃子もね」
「はいはい」

 この二人、本当に仲がいいんだな。
 信じられる親友がいるって、とても有難い。

 奈々美……。
 本当なら彼女ともずっと友達でいたかった。
 何故わたしを裏切ったの?
 ここでも楽しく食事が出来る仲でいたかったよ。

 昼休みが終わり、トイレに入ると奈々美が携帯で誰かと話をしていた。

「はい。そうですか……。わかりました。なるべく早く伺います。はい。そうですね。失礼します」

 落胆したように画面をタップする彼女。

「どうかした?」
「子どもが熱出しちゃって、迎えに来て欲しいって」
「そう。それじゃ、早く行ったほうがいいよ」
「研修がやっと終わってこれからって時なのに」

 悔しそうな顔をする彼女。
 まあ確かに入社して一週間で早退を申し出るのは気が引けるかもね。
 だけど、仕方ないじゃん。
 大切な子どもなんだし。

「それじゃ」
「うん。お大事に」

 子どもを持って働くって、やっぱり大変そう。
 わたしもいつか結婚して、子どもが生まれても働こうと思ってた。
 それって、やっぱり大変なんだろうな。

 トイレから戻る時に総務部を覗くと、奈々美が純平さんに頭を下げているのが見えた。
 彼は笑っている。
 きっといいよいいよって言ってるんだと思う。

 次の日から二日間、彼女は会社を休んだ。

「清美、何だか元気無いみたいだけど?」

 お昼ごはんを食べている時に、めぐみが発した言葉で我に返る。
 わたしってば、今、奈々美の事考えてた。
 わたしを裏切った最低な女。
 それなのに、子どもは大丈夫かなって考えてた。
 それに、頻繁に休むようだったら、うちの会社も契約を切るかもしれない。
 派遣だったら別に彼女じゃ無くてもいいんだもん。
 それで職を失ったら、子どもと二人、どうやって生活して行くんだろう。
 そんな事を考えてた。

 それをめぐみに話すと、

「関係を絶った友達なのに、やっぱり気になるんだね。裏切られても、手を差し伸べるつもり?」

 って、あきれられてしまった。
 その後に、

「清美、凄いね。わたしだったら絶対無理だよ」

 って、言われた。

 わたしだって無理だよ。
 元の関係に戻るのは。
 だけど、一生相手を憎み続けるのも違う気がする。
 どうしたらいいんだろうね。
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