エリート弁護士は独占愛を刻み込む
なぜここに連れて来たのだろう。
仕事にしろ、住まいにしろ、俺が直接面倒を見なくても、他にいいところを紹介できたのにな。
マッサージを終わらせて、葵の寝顔をじっと見る。
今よく見てみると、あの子とは全然似ていない。
似ているのは腰までありそうな髪の長さだけ。
でも、一週間前に葵を見かけた時、死んだはずのあの子に思えて放っておけなかった。

あの日は晶と涼太とバーで飲んだ帰りで、駅でタクシーを拾おうとしたら、葵がハーフコートを着た中年男に絡まれていた。
彼女の姿を見て、八年前に自殺したあの子だと思った。
あの子というのは、当時高校生だった俺のクライアントのお嬢さん。
だが、死んだ人間が生き返るはずもない。
頭ではわかっているのに、知らず足が勝手に動いて、ハーフコートの男を止めに入った。
『警察を呼びますよ』
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