完璧美女の欠けてるパーツ

梨乃の会社はオフィスビルの28階から30階までフロアを借りていて、梨乃の広報部は28階にあった。1階のカフェにも惹かれたけど、カフェの隣にある日本初上陸のパンケーキ店がオープンしたばかりで、きっと混雑しているからテイクアウトは次回のお楽しみにしよう。

20階にあるコンビニでスマホをかざしてコーヒーを買い、エレベーターに戻ろうとしていたら。

「うわぁ!すいませんっ!」
切羽詰まった声と共に、梨乃は後ろからドンされてしまった。

細い梨乃の身体は前にのめり、コーヒーも半分こぼれてAラインのスカートにかかってしまった。茶系のスカートでよかった……という問題ではない。そしてのめった瞬間スローモーションのようにスーッと床からシルバーの光る物が滑り込み、梨乃は止まらずパンプスでそれを踏む羽目になってしまった。グシャリだかガシャリだか、金属の嫌な感じが足裏から伝わる。

「すいませんすいません。本当にすいません、ケガはなかったですか?」
細いシルバーのフレームをかけたメガネ男子が、その奥の目を開いて梨乃を確認すると、彼の瞳孔がまた大きく開く。

男性にしてはパッチリした目をしている。
彼に対する第一印象はそれだった。

「すいません。思い出したことがあって忘れないうちにスマホに書き込んでいたら……あぁ本当にすいません。つい夢中になってしまって、やけどしませんでした?コーヒー弁償します、いやその前にスカートが……あぁどうしよう」
泣きそうな顔をしながら自分がやらかした失敗でパニくっている。すれ違う女子社員が笑いながら興味深々でチラ見して振り返っていた。
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