愛というもの~哀しみの中で~
「ごめんなさいね。あなたにわかってもらおうとは思っていないわ。」

彼女は力ない声でそう言った。
真さんが前に立っていてどんな顔をしているのかは見えなかったけど、泣いているように感じた。

「わかるはずない。でも、あなたにも私のことはわからない。わかってほしいとも思わない。」

「わかったよ。茉莉さん、落ち着いて。叩いて悪かった。」

真さんは私を優しく抱きしめると振り返って彼女を見る。

「透子さん、申し訳ない。この子は弟が守っていくはずだった人で子どももまだ小さい。心の傷も癒えてない…放ってはおけないんだ。」

「えぇ、わかってるわ。それに、理由はそれだけじゃないでしょ?私は元々人としてしてはいけないことをしたの。これは報いるべき私への罰なのよ。」

罰?なぜあなたが罰をうけるの?
怒りが治まらず真さんの服を力いっぱい握った。

「そうだな、人にはいえない感情がないとは言えない。透子さんも、罰とか言わないで。あなたは素敵な女性だ、透子さんに見合った人が見つかることを祈るよ。」

私は腹が立っていて冷静ではなく言っている意味が理解できなかった。

「さぁ、もう恭吾を迎えに行こう。透子さん、気をつけて帰って、それじゃ。」

「じゃあね、茉莉さん、あなたは何も悪くないわ。それでいいのよ。みんなに守られて、愛されて生きて。」

どうして?どうして私は愛されるべき人間じゃないのに。
自分の中に今までに感じたことのない、感じようとしてこなかったドロドロとした感情が湧いて溢れてくるようだった。
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