再びあなたを愛することが許されるのなら

「彼女がいないのが欠点だ」というところで僕らの話は止まったままだった。

沙織さんが僕の彼女になってくれるっていう事?

そりゃ、何が何でもいきなりそんな展開になるはずがない。
電車が駅に着いた。

沙織さんからのメッセージ。物凄く気になるけど、バイトの時間にもうギリギリだ。


スマホをポケットにしまい込み、急いで駐輪場に向かい、愛車の自転車でバイト先に向かった。その後何度かメッセージが入っているような音がした、見ている余裕はその時の僕にはなかった。


バイトに送れるとまずい!

今日は遅番だ。もうじき混む時間にるだろう、もう頭の中はバイトの事にシフトしていた。
何とかまにあった。事務所のドアを開けると、パソコンに向かい事務処理をしているチーフの鳥宮恵梨佳(とりみやえりか)さんが僕の方を見て「どうしたのそんなに息切らして」と驚いていた。

「おはようございます。遅刻寸前だったもので、急いできました」

じわっと汗がにじみ出る。

「すごい汗。ちょっと待ってて」恵梨佳さんは、自分のバックからハンカチを取り出し「はい、亜崎君これで汗拭いて」と手渡してくれた。

「すみません。でもいいんですか?」

「どうぞ遠慮なく」その言葉に彼女のハンカチを額にあて汗を拭いた。


ほのかにいい香りがした。


「ありがとうございます。あとで洗って返します」

「いいのよ別に気にしなくて」ニコッと、ほほ笑んだその笑顔が大人の女性という感じをうかがわせた。

更衣室のカーテンを閉め着替えていると

「亜崎君今日平日なんだけど、ディナー混んできそうなのよ」

「そうなんですか」

「何か近くで今日イベントでもあるの?」

「さぁ、どうでしょう僕は知りませんけど」

「そっかぁ、何だろうね」

カーテンを開け、制服に着替えたその姿を見て恵梨佳さんは


「うん、今日もばっちりキマッテル。頑張ってね」明るいほほ笑みを添えながら僕にそんな言葉を投げかけた。


初めてこのカフェで僕が見た時の、恵梨佳さんのその笑顔を思い出させてくれるようなほほ笑みだった。



そしてこの日、僕はある出来事がきっかけで恵梨佳さんと一回限りの関係を結んだ。そのことがこの僕自身を変えたのかもしれない。

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