食べたくない私 と 食べさせたい彼【優秀作品】
 私が勤めているのは、地元のケーブルテレビ局。

 文学部を卒業した私は、半年前にここに入社した。

 私の仕事は、ニュースなどの原稿を書くこと。
ニュースと言っても、ケーブルテレビ局で扱うニュースは、「◯◯小学校で運動会が行われました」とか「△△中学校の××部が全国大会で3位になりました」とかの超ローカルニュースだ。

 ところが、一月前、キャスターの真美子(まみこ)さんが、切迫流産で入院してしまった。
臨月になる春までは、頑張るって言ってたのに。

 そこで石井さんが出した結論が、

「堀川、お前やれ」

というものだった。

「なんで私なんですか!?」

私は文章を書くためにここに就職したのに。

「お前、面接でちゃんと言っといたろ。
うちは人数が少ない。
みんなで助け合って仕事するから、
他の仕事をやってもらうこともあるって」

「そうですけど、私以外にも人はいるじゃ
ないですか」

私は、なんとかキャスター役を回避しようと食い下がってみる。

「お前、エントリーシートにでかでかと学生
時代のボランティア活動書いてただろ?
どんなボランティアしてたのか
言ってみろ」

「図書館で絵本の読み聞かせですけど、
それが何か?」

「じゃあ、今日から、カメラの前で、原稿を
視聴者に読み聞かせろ」

「……………… 」

二の句が継げなかった私は、石井さんの思惑通り、キャスターをやらされることになった。

しかも、人使いの荒い石井さんは、街ぶらロケまで入れてきた。

 だから私は、出勤後、カメラを担いだ石井さんと共に、コスモスが綺麗な公園や、人気のカフェなどの取材に出かける。
昼過ぎに会社に戻り、原稿を書き、夕方自分で書いた原稿をカメラに向かって読む。
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