頑張る
次の日も、家が近いのか、蓮のことを行き帰りでよく見かけるようになった。
(私、蓮くんに何かしたなら謝らなきゃ)
友達はいないけど、蓮には嫌われてるままは嫌だった。目の前にいるので声をかけようと一歩踏み出す。その時。
「蓮く「れんー!」
見たことない女の先輩に先に話しかけられてしまった。せっかく勇気を出したが、引っ込んでしまう。
「今日空いてるー⁇一緒にカラオケ行こうよー」
「あー、いいよー!あと誰くんの⁇」
「あたしとだけじゃ嫌ー⁇笑笑」
「まあいいけどなー笑」
(笑ってる。)
自分の時に見せてくれなかった笑顔で、楽しそうに話す蓮は、昔のままだった。会う度に蓮はいつも違う人といて、人気者だと、自分と違う世界にいるのだと思い知らされる。顔だって整っていて、きっと自分以外には人当たりも良くて、明るくて楽しそうで、考えるほど良いところしかないのだから当たり前である。地味で取り柄のない自分が話しかけられる相手のはずがない。けれど、昔のように話しかけてくれなくても、なんで冷たくされるのか知りたかった。自分が原因なら謝っておきたい。あんなに優しかった蓮が豹変するくらいなのだから、きっと無自覚で酷いことをしてしまったのだ。今までの彼には感謝しかない。だからこそ、恩を仇で返すようなことはしたくなくて、せめて謝らせてくれないかと考える。自己満足なだけかもしれないが。さっきいた先輩とは一度別れたようで今はまた1人である。チャンスだと思って、今度こそ話しかける。
「蓮くん!」
「あ?なんだ…」
澪が話しかけてきたとわかった瞬間、声が低くなった。
「…あのさ、私何か蓮くんにしたかな?」
「は?なんで?」
「なんか…怒ってる気がするから」
「別に怒ってないけど。てか、なんでまだ蓮くんとか呼んでんだよ。高校入ってたまたま会っただけだし…てか、ついてきた訳ないよな?」
「そんな事ない!」
「そういえば、お前家こっち方面じゃないだろ?昔はよくおばさん達困らせてたし、無理言って1人暮らしとかしてんのかよ。」
「…っ違うよ。ごめんね。話しかけて。」
せっかく話しかけたのに、畳み掛けるように発せられた言葉が胸に突き刺さって、泣きそうになる。けれど、それも迷惑だろうなと思って我慢して笑うが、情けない顔になってしまっているだろう。聞きたいことがあったのに答えてはくれなさそうで、もう嫌われたままでいいやと思ってしまう。自分には前のように話しかけてくれないと考えてしまい、寂しくなった。
「ちょっと訳あって、お母さん達もういないんだ…本当にごめん。会えて嬉しかった。じゃあね、時谷先輩」
すぐに顔を背けて、その場から逃げるように走る。後ろで何か声が聞こえたような気もするが、知らない。ここで関係も終わったんだ。家について、玄関でうずくまる。寂しくて、悲しくて。
(ああ、これで完全に1人になってしまったんだ)
自嘲気味に笑う。これだから、幼なじみとか家族とか、友達も、最初からいなければいいんだ。離れていった時の心の痛みなんて、何度経験しても慣れない。
(しんどいなぁ)
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