身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
まだ横になったまま、顔のほてりをパタパタと手で仰ぎながら私は尋ねる。
「風花……」
そのセリフに、私は急に記憶がよみがえる。
うそ!
あの時の人?
唐突に思い出した、あの時の香りと、ずっとここに住んで以来、悠人さんといるときに感じる懐かしい、冬のにおいに混じる香水の香り。

悠人さんにとっては、何気ない日常の一コマでもちろん覚えてもいないだろう。
でも、私は残されたクリーニングの袋に入ったままのマフラーが実家のクローゼットには眠っている。

私にとってまた一つ、悠人さんに言えない秘密が増えた。


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