ただの同級生
一筋の風が頬を撫でた。もう空気も冷えてきて、息も白くなるようなそんな毎日。今日も学校へ向かう途中、暗い茶色の頭を見つけた。普段から私によく声をかけてくれる男の子だ。何となく声をかける気にはなれず、そのまま少し離れて歩く。しばらくして彼が赤信号に引っかかり、私が追い付いてしまった。彼は少し驚いた表情をしたあとに、綺麗な顔で笑った。
「おはよう、偶然だね。声かけてよ。」
彼につられて少し笑う。
「おはよう、ごめんね。ちょっと遠くて声をかけづらかったの。」
彼は納得してくれたようで、「そうか」とだけ言って頷いた。学校まではあと少し。彼と2人で歩けるのもあと少し。ゆっくり歩くと彼も歩調を合わせてくれる。
(こんなにゆっくり歩いているのに、すぐ学校についてしまう)
学校はもう目前まで迫っていた。そのうち彼の友人が彼の周りに集まるのだろう。少し目線を落とす。
(寂しいな)
ただでさえ今日は気分が良くないのだ。どうか2人でゆっくりさせてほしい。そんなことを思っていたら彼が不意に口を開いた。
「もう学校ついちゃうね」
彼も寂しいと思ってくれているのだろうか。
「そうだね。」
特に上手い返しも見つからず、そうとだけ返した。彼は何故か表情を忙しなくさせている。不思議に思い立ち止まる。あくまで自然に、下心なんてないように。しばらくして彼も落ち着いたのか話しかけてきた。
「あのさ、今日2人で一緒に帰れない?」
「え?」
驚きのあまり声に出てしまった。私と彼は友人であれど一緒に下校する仲ではないはずだ。
「嫌ならいいんだけどさ!気にしないで!」
「あ、いや違うの。一緒に帰りたい!」
必死に否定したくて珍しく声を荒げてしまった。彼も驚いたのか目を丸くさせている。
「そっか、ならよかった。授業終わったら迎えに行くな。」
そう言って彼は照れたような笑いを浮かべた。私も頬が熱くなってしまった。彼の友人たちの声が遠くに響いていた。
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