愛され秘書の結婚事情

4.


 表に車のエンジン音を聞いた直後、七緒はキッチンの椅子から立ち上がり、玄関ドアに向かっていた。

 しばらくもしない内にチャイムが鳴り、彼女は相手の確認もせずにドアチェーンと鍵を開けた。

 外開きの扉が廊下側から開き、彼と彼女は至近距離で顔を合わせた。

「「あ」」と、二人の声が重なる。

 部屋の内と外で、七緒と悠臣は一瞬、呼吸することも忘れて見つめ合った。

 七緒はすでに入浴を済ませ、長袖のパジャマの上にカーディガンを羽織った格好だった。

 悠臣は出社した時の格好で、ただしジャケットは脱いで腕に掛けていた。

「……来たよ」

 悠臣が言った。

「はい。……お疲れ様でした」

 七緒が笑顔で答え、その愛らしい笑みを目にした瞬間、彼の理性は霧消した。
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